3年ゼミの授業(経済学科 朱ゼミ)
3年ゼミでは、所得税の仕組みを勉強したとき、給与所得控除の内容についてみんなで討論を通じて広範な認識が得られました。所得税は直接税を基幹税とする戦後税制におけるもっとも重要な税の1つとして位置付けられています。累進課税を特徴とする所得税はまず注目されるのは何といってもその累進税率のことです。総所得金額が高くなるにつれて、税率も段階的に上っていくという所得再分配の機能が所得税に含まれているからです。
しかし、給与所得控除制度の勉強を通じて、累進税率だけでなく給与所得控除の仕組みも所得再分配の機能を果たしていることが分かりました。つまり、事業所得の実額控除と違い給与所得控除は法定額に基づいて概算的に控除されているのです。控除額の収入に占める割合が収入の増加によって逓減していきます。そして、控除額は普通考えられる給与所得者の必要経費よりはるかに大きいという事実です。
例えば、年収500万円の給与所得者の場合、必要経費としての給与所得控除が144万円と認められています。勤務上必要な施設、器具、備品、通勤に係る費用は、通常企業側によって負担されている状況から考えれば、控除額が大きいと言わざるを得ないのです。他の先進諸国と比べても、日本の給与所得控除の大きさが明らかです。
それでは、なぜこのような高額の給与所得控除が認められているのかについて、ゼミの学生が主体として様々な資料を調べて、関連する論点を整理しました。そして、給与所得控除に関する論点が時期によって変化することが分かりました。戦後の税制改革の時、担税力の強弱が注目されていましたが、1980年代に、租税の捕捉率の違いいわゆるクロヨン批判が展開されました。2010年代になると、批判の矛先が給与所得者のサラリーマンに変わりました。つまり、給与所得控除が収入に応じて上限なく上がっていくのがおかしいとの批判でした。そこで、2013年度から、給与収入1,500万円の場合の245万円が上限となりました。その後、連続の上限引き下げで、2020年度から現在の給与収入850万円の場合、195万円の上限となっています。
こうした論点の整理は、ゼミ生にとって分析力と思考力を鍛える機会となりました。ゼミ生は特定の時期における税制改革が当時の経済状況及び社会状況との関連を問題意識として持ちながら、次の段階の勉強に進めていきます。